社労士相談室
サバティカル休暇とは? 導入のメリット・デメリット

1、はじめに(サバティカル休暇とは)

「サバティカル休暇」という言葉を聞いたことがありますか?サバティカル休暇の「sabbatical」は、日本語で「安息」「休息」という意味があります。これは自社に一定期間勤務したことを条件に与えられる長期休暇です。休暇の使途や期間に定めはなく、どんなことに休暇を利用するかは個人の裁量に委ねられているうえ、1ヵ月以上から、長くて1年以上もの休暇が認められることもあります。

ヨーロッパの企業で特に多く採用されています。伝統的には大学教員に多く採られている制度であって、研究休暇、在外研究などの呼称もあります。もともとは休むための休暇ではなく、研究に特化できる制度としての休暇が「サバティカル休暇」のはじまりです。
日本では、2013年にYahoo! JAPANが「最長1年の休暇制度」を導入したり、2021年4月から全日本空輸が、理由を問わずに最大2年間休職できる「サバティカル休暇制度」を導入することになりました。「人生100年時代」の到来を見据えまとめられた、経済産業省の有識者研究会の報告書(2018年3月)の中にもこの言葉が登場していることもあり、昨今注目を集めている休暇制度といえます。

今回はこのサバティカル休暇の、導入のメリット・デメリットを確認していきます!

2、導入のメリット

導入のメリットは大きく3つ上げられます。 

①長時間労働の是正

長期休暇は、長時間労働の抑止・休暇取得日数の増大に直接的につながり、企業の働き方改革に大きく貢献するものと考えます。年次有給休暇、育児休業や介護休業の取得時と同様、利用がしづらい、休んでいる間の仕事が心配と言った意見はサバティカル休暇にも同様に寄せられると考えますが、そこを突破することにより、労使の協調や業務の見える化が進み、結果的に労働環境の是正につながることが想定されます。

②従業員のモチベーションアップ・離職率低下

属人化している業務がいったん手離れすることで、長期勤続社員がリフレッシュの機会を持て、より長く働く活力を得ることができます。またサバティカル休暇は現在導入企業の方が圧倒的に少ないため、従業員の自社に対する満足度を上げ、既存社員の離職率を下げる、新規社員の採用競争力を上げることにも直接的に寄与すると考えます。

③生産性向上

大学院に通う、就業中ではできない研究をするなどして、業務と密接に関連する能力を高めることも出来ますし、業務とは直接の相関がないことに休暇を充てるとしても、従業員は多様な視点を獲得できます。自らのエンプロイアビリティーをあげ、一段上のキャリアを選択することが可能です。

3、導入のデメリット

①担当従業員の長期不在により業務が混乱する可能性

サバティカル休暇は一定期間勤務した従業員、言い換えるなら会社の主戦力となっているベテラン社員が対象です。そのような社員が休暇を長期間取得することにより、ほかの社員への情報共有不足や業務量増加によって、業務に混乱が生じる可能性があります。業務量の調整やマニュアルの作成、休暇前に引継期間を設けるなど調整が必要です。

②制度設計をどのように行うかの具体検討が必要 

サバティカル休暇自体が、自由な枠組みに基づく制度であり、大部分が会社の制度設計に委ねられることとなります。一度設計・導入してしまった制度は従業員にとっては労働条件の一部となるため、その後の変更には一定の制約がかかります。従業員の長期休暇と事業のスムーズな継続が両立できるよう入念かつ具体的な制度検討が必要になります。 

また、2019年4月から施行された年次有給休暇の5日取得義務も各企業に浸透してきましたが、サバティカル休暇の取得促進が年次有給休暇の取得率に影響するということも考えられます。 使用者においては、年次有給休暇の5日を取得していない従業員にはこちらを優先して取得させることも一案です。

③従業員にとっては、休暇中の賃金が無給となる可能性が高い

サバティカル休暇を有給とするか、無給とするかは、各社のサバティカル休暇に対する方針によっても異なると考えられますが、ノーワークノーペイの原則、また休暇を取得せず就労している社員との公平性の観点上、無給とする企業が多いのではないかと想定されます。

従業員にとっては、長期間の休業を無給で乗り切る必要があるということは、デメリットの一つといえます。

休暇中の社会保険料も、育児休業等と違って免除されないため、労使でどのように納付するかを合意しておく必要があります。

4、導入するための準備、注意したいこと

STEP1:まずはどういう制度にするかの設計をします。

①導入の目的:導入のメリットは多々ありますが、その中でもどんな社員をターゲットに、どのような効果を狙って導入するのかを関係者で合意しておくと制度設計がスムーズになると考えます。

(例)

・勤続10年以上の社員を対象に、長期勤続のリフレッシュの目的で導入する。

・マネージャー経験5年以上の役職員を対象に、 教育研修の目的で導入する。

②取得の要件:目的に基づき具体的なルールを設定していきます。勤続何年以上を対象にするのか、何か月休めるのか、無給なのか有給なのか、取得期間は有給休暇の出勤率算定にいれるのか、賞与算定の対象にするのか、といった事項が考えられます。

③その他会社の関与の仕方:例えば、月々の社会保険料の納付はどうするか、取得促進のために一時金等を支給するのか、国外に行くと言った場合に報告をさせるか、有事の際の連絡系統といった事項についても検討しておくのが望ましいです。 

STEP2:就業規則の改定

STEP1で検討した事項を就業規則に落とし込みます。注意事項としては、就業規則については、一度定めた内容を従業員にとって不利益な内容に変更するのは初回制定時よりハードルが上がります。不利益変更法理といって従業員への説明、不利益緩和措置などが必要となるためです。

また、同一労働同一賃金の観点から「サバティカル休暇の取得期間について、正社員は有給とするが有期契約社員は無給とする」などといった取り扱いは認められません。

制度の大部分が会社に委ねられており、人事担当が頭を抱える部分も想定されますが、苦労して導入したサバティカル休暇はおそらく自社のカラーが反映された、特徴的な制度となることが考えられます。

5、経済産業省、厚生労働省の後押しも

経済産業省ならびに厚生労働省も、サバティカル休暇の導入を後押ししています。サバティカル休暇を使って社会人が大学院や専門学校、海外ボランティアなどで学び直す機会は、年齢に関係なく働き続けることができる社会づくりに向け、企業で働く人が時代に合った能力を身につけることができるため、有益であるとしています。

導入企業に対しては厚生労働省の助成金が受けられる可能性もあります。具体的には、「人材開発支援助成金 (教育訓練休暇付与コース)」が、企業の従業員へのサバティカル休暇の付与によって受けられる可能性のある助成金です。

これは、事業主以外が行う教育訓練等を受けるために必要な有給の教育訓練休暇(年次有給休暇を除く)を被保険者に与え、自発的職業能力開発を受ける機会の確保等を通じた職業能力開発及び向上を促進する助成金制度です。導入の際に20~30万円、120日以上の休暇に関しては休暇1日あたり6000円の助成が受けられる可能性があります。

職業能力開発推進者の選任、事業内職業能力開発計画の策定を経て、就業規則などに休暇ルールを明記した上で、実際に社員が休暇を取得した企業が対象となります。

導入を検討する企業は、関連し得る助成金についてもチェックしていただきたいです。

6、おわりに

長期の勤続期間を経た社会人であるからこそ、学び直しの機会は一層重要です。前述の通り、従業員にとってのメリットだけでなく、生産性向上や採用競争力の向上など、会社にとってのメリットも見逃せません。日々の多忙な就業とは両立できないような高度な技術の習得や、自身の業務に生かせるような専門的な内容を、サバティカル休暇を利用して身につけることも考えられます。

経営者・人事担当者の皆様には、サバティカル休暇を活用して、メリハリのある企業風土づくり、また人生100年時代を見越した充実した個人のキャリア作りの応援を実現していっていただきたいです。

【執筆者プロフィール】

寺島 有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部 卒業。

新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

HP: https://www.terashima-sr.com/

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